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貸し渋りを解消するためには資本投入しか方策は無いもちろんアメリカ本土では、貸し渋りの影響はこれからどんどん拡がり、経済を直撃することになるだろう。
O8年4月に発表されたFRBによる米銀の貸出態度の調査でも態度の厳格化が進んでいることが報告されている。
これまでの経験によると、この指標が悪化した数カ月後にその悪影響がアメリカ経済に出てくると言われている。
そうした問題に対して、どんな政策があるかというと、先ほどの図5の日本の例にもあるように政府による銀行への資本投入が最も効果的である。
グラフを見てもわかるように、政府はいで拡大していた貸出態度の悪化がピタッと止まった。
私は当時、テレビ、新聞、雑誌等で、ずいぶん「資本投入を急ぐべきだ」という提言をした一人である。
なぜなら、BISの規制によって自己資本を総資産の8%持たなければいけないとされる銀行がひとたび8%を切ってしまうと、テコの原理が働いて、銀行は致損した資本を一ドル段損すると、同行は貸し出しを2〜5ドル減らさなければならなくなるのである。
銀行が一斉にそのような行動を採ると経済は雪だるま式に悪化し、そのことがさらに銀行の自己資本を叩く。
その意味で、銀行が自己資本を致損するということは、経済全体に対してたいへん深刻な問題を引き起こすことになるのである。
しかも私は、前述のモルガンの件で述べた1933年にルーズヴェルト大統領が実施した政府による銀行への資本投入が、アメリカが大恐慌から脱却するのに重要な役割を演じたことを知っていた。
だから私は日本で初めて、「資本投入を実施すべきだ」という自説をテレビ等で展開したのである。
アメリカでもこれから必ずやこの問題が飛び出すであろう。
O8年3月になって、バーナンキもついに「景気後退もありうる」と発言したが、彼の念頭には、銀行の自己資本比率が8%を切ると、銀行は致損した自己資本の=了5倍の貸し出しを減らさなければならないから、景気は加速度的に悪化する、という懸念があったと思われる。
そんな全国的な問題に直面している時に、個別行の存続を議論していても仕方がない。
現状一ドルの問題が=15ドル分の貸し渋りを生み出してしまう世界であり、それをまさに、回避するには政府の資本投入、言い換えれば財政出動が不可欠になってくる。
実を言えば、この資本投入には難しい問題がある。
日本の銀行の資本が段損していた95年から96年にかけて、アメリカは日本に対してきかんに「早く公的資金を投入しろ」「不良債権を処理しろ」と言ってきた。
もちろん、アメリカの主張のなかにはいくつかの問題点があったことは確かであるが、それに対して日本はひたすら逃げ回った。
なぜあの時日本は公的資金の投入ができなかったのかというと、話は92年にさかのぼる。
当時、総理大臣だった宮津喜一氏が、バブルが崩壊して銀行がおかしくなっていくプロセスを見ていて、「早く公的資金を入れてこの問題を片づけよう」と提案したことがあった。
さすが経済通の宮淳氏だけあって問題をきちんと把握していたのである。
その時、マスコミが一斉に反発した。
久米宏のようなテレビ・キャスターや週刊誌が「高い給料をもらっている銀行員を庶民の血税で救済するのか」と、公的資金投入反対の大キャンペーンを打ったのである。
この銀行叩きは巨大な国民的現象になり、それで宮津氏も持論を撤回するしかなくなり、公的資金の話は一気に潰れてしまった。
しかも、当時のか銀行パッシングがすさまじかったため、その後、97年12月に私が言い出すまで日本では誰一人として「公的資金」の話ができなくなってしまったのである。
皮肉なことに、今アメリカでも、当時の日本とまったく同じことが起きている。
今年の2月上旬、日本でG7が開催されたが、その時に額賀財務大臣がポールソン財務長官に「早く公的資金を投入しないととんでもないことになる」と忠告した。
それに対して、ポールソン財務長官は、民間銀行の資本増強は必要だとは認めたものの、政府が何をするかについては一言も言及しなかった。
アメリカでも、かつての日本とまったく同じ議論が起きているからである。
つまり、今アメリカでは「あんなに高い給料をもらっているウォール街の連中を救済するのか」と、激しいブーイングが起こっているのである。
一般のアメリカの商業銀行に勤めている人たちの給料はそれほど高くないが、ウォール街の連中の給料は日本の銀行員の給料とは桁が2つくらい違っているから、それに対する反発も半端ではない。
アメリカの当局者は、そんな高給を取っているウォール街を助けるように見えてしまうことをものすごく恐れているのである。
実際、ベアー・スターンズが破綻した時、FRBは直接ベアー・スターンズに資金を注ぎ込むという方法は採らなかった。
商業銀行であるJPモルガン・チェースを介在させて、ベアー・スターンズを救済するかたちにした。
中央銀行であるFRBが、ウォール街の一角であるベアー・スターンズの面倒まで見ていると思われるのを避けたのである。
また当局は、前述のようにJPモルガンがベアー杜の株を買う価格を極力低く抑えようとしたという。
当局はベアー社の株主に大損させることでウォール街を救済しているという非難を避けようとしたのである。
97年の12月まで日本が動けなかったのと同じような事情が今のアメリカにもあるのである。
ポールソン財務長官もおそらく、あまりに早い時期に資本投入の話を出してしまうと宮津首相の例のように反発が先に出てしまい、できることもできなくなってしまうという懸念を持っていると思われる。
だからG7の時も不用意な発言はしなかった。
またアメリカは、今年は選挙の年だから、この問題で軽々な発言をして、大統領候補の誰かに「自分は絶対に資本投入はしない」と公約でもされ、その候補が大統領にでもなったら目も当てられない事態になる。
それゆえ、ポールソン財務長官はあえて資本投入の話を避けているのではないか、と思われるのである。
日本で公的資金による資本投入の話ができるようになったのは、97年後半に景気が財政再建と貸し渋りで大幅に悪化したからである。
アメリカの当局者も、ある程度景気が悪くなって国民が貸し渋りの痛みを感じるようになった時、そこで発言しようと考えているのではないか。
だから今は資本投入を言いたくても言わないのである。
実際、ブッシュ大統領もポールソン財務長官も、この問題が表面化してから今日まで一貫して「借り手救済は行うが、貸し手救済は絶対にしない」と言い続けてきた。
現時点で彼らは、国民の税金でウォール街を救済することは絶対にないと言っているが、景気がどんどん悪くなり人々が悲鳴を上げ始めれば、資本投入の話を持ち出してくるだろう。
その時は賛成派が多くなり、資本投入も実現できる可能性が高いからである。
そうした政治的配慮が問題の解決を遅らせているのだが、実際にはアメリカはそういうプロセスを歩むようになると思われる。
政府による資本投入には、それを受ける銀行側にとっても懸念すべき点がある。
日本のケースを見ても、当初、資本投入の話が出てきた時、すべての銀行は「要らない」と断った。
公的資金を投入されると、政府が大株主になるから、うるさく経営に関与してくる可能性がある。
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